映画好きなら絶対泣く。原田マハ『キネマの神様』

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名画座、とても懐かしい響きだ。大学生の頃授業をさぼって良く名画座に2本立てとか3本立ての作品を観に行ったものだ。当時は、「ぴあ」という雑誌があって日本全国の映画館で上映されている作品やスケジュールが掲載されていて、今度はどの映画を観に行こうかと印を付けるのが楽しかった。読者も面白い人が多かったんだろう。紙面の余白にも活字ではなく手書き文字で読者からのコメントやメッセージが掲載されていた。その中で今でも覚えているのが、当時のセブンイレブンのコマーシャルで、「セブン・イレブン、いい気分。開いてて良かった〜 (^^)」というフレーズをもじって「セブン・イレブン、ハエぶんぶん。閉めときゃ良かった〜 orz」というものがあって大いに笑ったり感心したりしたものだ。
今の日本に名画座はどのくらい残っておるのだろうか。ここに引っ越してきた10年ほど前は、まだ3館あった名画座もつぎつぎとマンションやテナントビルに変わってしまって、今はなくなってしまった。大型スクリーンで誰に邪魔されることもなく、真っ暗な中に浮かぶ色とりどりの映像を泣いたり大笑いしたり腹を立てたりした場所が。

今はシネマコンプレックス。いろいろなロードショウ作品がいっぺんに観れる。大変便利だし、3D撮影や映写の技術が格段に進歩したのでとても素晴らしい新しい映像を観ることができる。でも2本立てや3本立てというのはない。それにすぐ公開が終わってしまって、さぁいよいよ観に行こうかと思うと既に終わっていたりする。気が早いよ。

物語は、齢80にならんとする主人公の父親ゴウちゃんが、これまで観てきた映画の評をブログに載せることになった。パソコンもインターネットもわからないまま人差し指でポツポツと文章を打っていく。その評には確かに引きつけられる。優しさが滲み出ているから読んでいてとても気持ちがいい。
ブログを書き始めるまでは、ギャンブル好きであちこちに借金をこさえて、とうとう身体まで悪くして。
よくもまぁ奥さんもこの娘も愛想を尽かさなかったものだとそっちに驚く。だって、なかなか帰ってこないと思ったらギャンブルでしこたま借金抱えて、結局女房や娘がその肩代わりをするのをこれまで何回も繰り返しているというのだから、普通ならきっともう離婚だ。でもこの妻と娘は怒るだけで、やっぱりその返済を代わってやってしまうのだ。人生を何年も一緒に過ごしてきた夫婦というのはそういうものなのだろうか。

さて、話を戻すと、ゴウちゃんの記事が英語に翻訳されて世界中に発信されると、そこに現れたのがローズ・バッド。もちろんペンネーム。ゴウちゃんの映画評に対する彼の辛口な批判で論破してくる。なかなか理論的であるのに対して、ゴウちゃんは敬意を持ちながら持論を展開し、それでもやはり相手が上手だとわかると潔く兜を脱ぐ。なんとも清々しい。有名な人のブログが炎上したという話を聞くが、批判をする人に対する敬意があればもしかするとそれほどでもないのではないかともこれを読んで思った。

この物語の泣き所は書かない。いい話だった。きっと僕のような年代の映画好きにはきっとたまらない本だろう。

人は、その優しさに触れると感動するものだね。

余談ですが、文春文庫の解説を女優の片桐はいりさんが書かれています。こちらの文章もとても映画好きならではのもので好きです。普通なら解説にはそれほど感心することはないのですが、こちらの解説もおススメですよ。^^)/

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