池井戸潤『空飛ぶタイヤ』

[`evernote` not found]
LINEで送る
LinkedIn にシェア

2002年に発生した三菱自動車工業製大型トラックの脱輪による死傷事故、三菱自動車によるリコール隠しなどを物語の下敷きとしているそうだ。とても臨場感というか真実味に溢れた物語だ。

当時の関係者たちがどういう顛末を迎えたのか、あるいは、今どんな道を歩んでいるのかはわからない。

でも、自分がこの物語に出ている運送会社の社長ならと考えると、あの社長の人間性に心から尊敬する。取引先にはいきなり取引中止を言い渡され取引銀行にはコンプライアンスを盾に貸し剥がしをされる。従業員の給料日も取引先への支払いも待った無しでやって来る。不渡りになればどの銀行ももう手を貸してはくれない。時間は刻々と過ぎていく。自分だったら無責任かもしれないがきっと耐えられないだろう。あのクリスマスの日、家族を残してハンドルを切っていたかもしれない。

あの大企業自動車メーカーのサポート係り課長だったらと考えると、これは物語だとわかっているから、正しいと思う方を選ぶが、現実ならば彼と同じ行動をとるかもしれない。そう思うと、彼の行動や考え方には親近感を覚える。友達なくすだろうなぁ。でも、この物語はそこまではしない。きっとそれまでの彼の生き方が友達をつないでくれたのだろう。羨ましい。

それにしても、どこで働く人もみんな自分の生活を背負って生きている。誰しもケツをまくりたくてもまくれない。

子供の頃、良いことと悪いことちゃんと教わったはずなのだが、分別を持てと言われる。大人になれと言われる。そして悪いとわかっていることも飲み込まなければならない社会だ。白を黒に、黒を白にと、そうじゃないこはわかっていても自分の口で言わなければならないこともある。こんな社会が本当に良い社会なのだろうか。毎度毎度仕方がないと過ごしてしまっていいのだろうか。青臭い正義感を出しても世の中ではなんら得にはならない。でも母親譲りなのだろう、そんな屈した考え方に争いたくなる。

物語だから、正義を貫く人や優しい人が登場して、他の池井戸作品同様に最後には正義が通る。現代版の時代劇だ。
自分の汚れや弱さに苛立ことが多くてもこの本には救われるし勇気も与えてくれる。
読み応えのある良い本だった。おかげで少し寝不足だ。

コメントを残す