山本周五郎『天地静大』

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中邑藩は東北に位置する小藩。藩の存続のため勤王派にも佐幕派にも近ず離れずで接していかなければならない。そんな中、学問のため江戸に暮らすことになった主人公は、そんな対立で同じ藩同士の友人たちが死ぬことに嫌気がさし、武士を捨て藩を捨て親を捨てて学問を究めていくと決心する。

山本周五郎の作品は、たしか国語の教科書に「さぶ」の一部が紹介されていて興味がわいたので読んだが、とても人の優しさが感じられる暖かい物語だった。この「天地静大」もそんな狂気に満ち溢れた武士の社会であってもひとたび武士を捨てた者には刃を向けない、そんな一線が引かれている気がした。最後には前を向いていく人の強さや周りの人たちの暖かい優しさがほんのりと感じられる物語は、どことなく石田衣良さんの作風に通じているのかもしれない。

坂本龍馬を始め将来生きていれば有望な志士たちがあちこちで殺されていった。日本には確かにそんな時代があり、そんな狭量な考え方があったのだ。そしてたしかに今もそういう心の狭い人間は自分を含めて大勢いる。ネットでは体勢を違う意見を述べようものなら寄ってたかってその投稿者を攻撃したりする。ひどい場合はその人のプライバシーまでも明かされて脅かすそうだ。便利になったはいいが残念でならない。
でも、それだからといってネットでの議論をあきらめるのではなく、議論するに足る相手をきちんと見定めて、以前『キネマの神様』にも書いたように、相手に敬意を払って議論するのがいい。自分も努力しなきゃ。

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